今回は番外編として、自民党の政治資金パーティー券収入に係るキックバックの課税問題について解説したいと思います。一部報道によると、自民党派閥からキックバックを受けた派閥幹部らが税務申告していないのは所得税法違反にあたる疑いがあるとして、市民団体が東京地検に告発状を提出したとのことです。
分析
本件課税のポイントを探る上で、所得税法のほか、政治資金規正法の観点からも分析する必要がありますが、今回は、課税上の取扱いに焦点を絞り、そのポイントを解説したいと思います。
まずは、分析の対象となる前提を整理しますと、派閥から受け取るキックバックは、パーティー券販売のノルマを超える部分について還元していたものと見られており、一般的には、販売インセンティブと呼ばれているものに該当するかと思います。こうしたキックバックを議員個人が受け取った場合には、通常、雑所得として課税されることになりますが、仮に、議員の政治団体が受け取っていた場合には、非課税となる可能性がありますので、キックバックの帰属が議員個人か議員の政治団体かについて明らかにする必要があります。しかし、キックバックが政治資金収支報告書に記載されておらず、かつ、現金で授受されている場合は、帰属先の特定が難しい為、実態解明には特捜部や査察部による強制捜査が不可欠であると思われます。仮に、強制捜査により、関係先や議員個人の自宅、事務所などを一斉にガサ入れし、議員個人宅から現金などのタマリが見つかれば、所得税法違反での告発や立件の可能性はあるものの、かなり高いハードルがあると言わざるを得ないと思います。そもそも雑所得は、収入から必要経費を差し引いた所得に対し課税されるものですが、申告漏れの所得が数千万円ほどしかなければ、通常、査察調査の対象にはならず、しかも、議員本人から、キックバックされた資金をパーティー券販売の為の政治活動(飲食代や交通費、事務費など)に使ったなどとの主張がなされ、これに対し、当局が政治活動以外に使用したことを明らかにできなければ、立件は相当困難なものにならざるを得ないのではないかと思います。キックバックが議員個人に帰属していた場合でさえも立件には高いハードルがありますので、ましてや議員の政治団体に帰属していたと主張されれば、よほど多額のキックバック収入があった議員でない限り、立件は難しいのではないかと思われます。今回のパーティー券収入のキックバック問題について、特捜部や査察部はどのように考えているのでしょうか。既に、特定の議員を絞り込み、議員個人や親族など関係者の銀行口座などの内偵調査を進めている可能性もありますが、キックバック自体が現金で授受されていることから、ガサ入れで自宅金庫などから相当のタマリが見つかれば立件の可能性は高まってきますが、現金の保管場所が変更されていたり、口裏合わせなどにより証拠が出てこない可能性もあることから、よほど信憑性の高い証拠やタレコミでもない限り、ガサ入れに踏み切ることには躊躇するのではないかと思います。善良な納税者からの信頼に応える為にも頑張って頂きたいものです。