報道によると、上場ゼネコン子会社が国税局の税務調査を受け、工事費の水増し請求や架空工事費の支払いなどで、法人の幹部らがキックバックを受けるなど、約6億円の所得隠しを指摘され、過去7年間にわたり重加算税を含め2億円以上の追徴課税を受けていたことが関係者への取材で分かったとのことです。
分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、建設業界における典型的な所得隠しの事案となります。
元請けが下請けと共謀し、下請けにキックバック分を上乗せした金額で請求させ、工事代金を支払った後、下請けから現金でキックバックを受けるといったシンプルなものが多いですが、この場合、工事代金の支払者である元請けは過大請求による工事費が否認されるほか、キックバックを受けた個人(役員又は従業員)は、所得税の申告漏れが生じることになります。本件事案では、申告漏れのほか、民亊上(不法行為)及び刑事上(詐欺や背任)の問題も想起されますが、報道では報じられておりません。なお、本件事案は、過去7年間で約6億円の所得隠しが認定されており、単純計算で1年あたり9,000万円ほどの水増し請求や架空工事費の支払いがあった模様で、それと同程度のキックバックの収受があったものと推察されます。報道によると、法人の幹部ら9人が関わっていたとされていますので、これも単純計算で1人あたり年間1,000万円程度、月額にすると80万円程度になるのではないかと思われます。なお、キックバックにより受領した金員は、取引先の接待や私的な飲食などに充てられていたとのことです。また、本件事案では、悪質な所得隠しであると認定された模様で、重加算税(本税の35%)の対象となっています。重加算税が課される場合には、延滞税の計算期間にも影響が出てきます。重加算税の対象とならない場合には、延滞税の計算期間は1年が上限となりますが、重加算税の対象となる場合には、修正申告等と同じ期間の延滞税が課されますので、7年前の申告漏れであれば、7年間分の延滞税が課されることになります。また、通常の更正期間は5年とされていますが、重加算税の対象となる場合には最大7年となります。本件事案では、重加算税の対象である上、過去7年分の追徴課税を受けていますので、かなり悪質な事案と言えるかと思います。追徴税額から見ても、査察調査の対象となってもおかしくない事案ですが、国税局の任意調査の段階において適切に対応できたことが、査察調査への切り替わりを阻止できたのではないかと推察致します。
本件事案からの教訓としましては、査察調査の対象となる脱税事案であっても、国税局の任意調査の段階で適切に対応できれば、査察調査への切り替わりを阻止できる可能性があると言うことです。現在、国税局の調査を受けられ、査察調査に切り替わるのではないかとのご不安を抱えられている方は、早めに専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。