報道によると、東京地方裁判所は、2020年3月25日、スーパーコンピューター向けのプロセッサーを開発する法人の元代表者が、虚偽の納品書を作成するなどNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から助成金約6億5,000万円をだまし取ったほか、架空外注費を計上するなどの手口で約8億5,000万円の所得を隠し、法人税など約2億3,000万円を脱税した疑いで逮捕、起訴されていた刑事裁判の判決で、懲役5年の実刑判決を言い渡しました。
分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、脱税事件と他の犯罪(詐欺罪)との併合事件となります。
併合事件の場合、そのほとんどが執行猶予の付かない実刑判決となっています。本件事案では、当初、助成金の水増し請求による詐欺事件として逮捕・起訴されていましたが、不透明な資金の流れを解明するなか、助成金の申請の際に作成されていた虚偽の請求書などが、そのまま税務申告でも使用されていた様です。法人税法違反による架空外注費などの計上額は、2009年~2014年12月までの5年間で約8億5,000万円とされており、単純計算で1年あたり1億7,000万円ほどになります。また、脱税額は総額で約2億3,000円とされており、法人税法違反のみでも刑事告発され有罪判決を受ける規模となっています。税務上、受け取った助成金は益金に算入され、法人所得として課税対象になることから、過少申告をする為、助成金の申請の際に用いた偽造の納品書や請求書などを架空経費として損金に計上していたものと思われます。本件事案において、東京地検は詐欺容疑で逮捕、起訴した後に、法人税法違反でも立件すべく、東京国税局と連携して、脱税容疑で再逮捕、追起訴に踏み切っています。
こうした大規模な経済犯罪事件においては、世間の注目も高いことから、特捜部はその威信に掛け、確実に実刑判決に導けるよう、併合事件として立件する傾向が高いのではないかと思われます。本件事案の様に、詐欺罪だけではなく、業務上横領や特別背任罪などの併合事件で刑事告発される事案もありますので、脱税の単独事案と比べ、査察調査の対応はより重要になってくると言えるかと思います。国税庁は毎年6月に「脱税白書」(査察の概要)を公表していますが、最新の公表分(令和5年6月)によると、一審判決では3人に実刑判決が出され、そのうち、査察事件単独で、最も重いものは懲役1年4月、他の犯罪と併合されたものは懲役2年8月とされており、併合事件では、より重い懲役刑が科されていることが分かります。
本件事案からの教訓としましては、詐欺罪や業務上横領などと脱税との併合事案では、実刑判決を受ける可能性が高く、量刑も単独事件に比べると重くなっています。査察事案において、併合事件が疑われている場合には、まずは税務の専門家である税理士にご相談頂くことを強くお勧め致します。