報道によると、「背任罪」で刑事告訴されている東京の私立医科大学の理事長をめぐり、資金流用の疑いがかかるなか、東京国税局は、2023年3月、同医科大学が複数の製薬会社から提供を受けた受託研究に係る資金について、非課税要件を満たしておらず製薬会社からの「報酬」に該当すると判断し、2億5,000万円の申告漏れを指摘、過少申告加算税を含め約5,500万円を追徴課税しました。
分析
報道では、事案の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、私立大学の理事長が『背任罪』で刑事告発されるなど大学資金の不正流用疑惑が上がるなか、資金の流れを追っていた東京国税局の資料調査課が、製薬会社から受け取る「受託研究費」が課税対象となる報酬に該当すると判断し追徴課税を行った事案となります。大学病院は新薬の治験などで製薬会社から臨床試験の委託を受け、薬の効能や安全性などの実証を行うが、一定の受託研究は公益性の観点から、研究成果を公表するなど一定の要件に該当したものは例外的に非課税措置の対象とされているが、調査の結果、大学病院が受け取った受託研究費は非課税要件を満たしておらず、業務請負報酬と認定され追徴課税されました。
本件事案は、国税局の資料調査課により行われた税務調査であることから、非課税措置を利用した大口、複雑、悪質性の高い事案であると判断され行われたのではないかと推察されます。資料調査課は、少数精鋭の調査部隊で、東京国税局では200名程度の少人数で調査にあたっています。資料調査課の調査では、脱税事案も対象とするため、査察調査との違いは何か、気になるかと思いますが、査察調査との一番の違いは、任意調査であるか、強制調査であるかという点になります。査察調査は裁判所の令状が必要であるため、着手前に脱税を裏付ける一定の証拠が必要となりますが、資料調査課の調査は、令状なしの任意調査であるため、機動的な調査に踏み切ることが可能と言われています。こうした資料調査課の調査対象のうち、調査の結果、悪質で、多額の脱税額が明らかであり、刑事罰を課すことが相当であると判断される事案で、任意調査の限界により、被疑者の供述を含め、脱税証拠の確保が難しいものについては、査察部による強制調査に切り替わる可能性が高くなります。
本件事案からの教訓としましては、国税局の資料調査課による税務調査が入る場合には、事前に多額の脱税や申告漏れを裏付ける証拠を収集していることから、任意調査であるとは言え、依頼された資料は提出し、申告漏れとなっている所得の存在を認識しているのであれば、自主的に開示するなど、調査に協力することが肝要です。資料調査課による税務調査は、査察調査に切り替わる事案も少なくない為、早めに専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。