報道によると、名古屋国税局は、2019年4月26日、美術品をオークションなどにおいて安値で販売し、在庫を処分したかのように装う一方、百貨店などに販売することで売上の一部を除外するなど、約5億7,000万円の所得を隠し、法人税など約1億3,000万円を脱税したとして、美術品販売会社と前社長を法人税法違反などの疑いで刑事告発しました。
分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、美術品販売の特性を利用して行われた脱税事案で、実質的なオーナーである前社長が関連会社(親子会社)を使い分け、子会社が仕入れた美術品をオークションなどで安値により販売し在庫を処分したかのように装うことで損失を計上する一方、簿外となった当該美術品を親会社が実際に百貨店などへ販売するものの利益を圧縮する為、架空仕入れを行うなどして、2015~2017年の3年間に、約5億7,000万円の所得を隠し、法人税など約1億3,000万円を脱税したとして、法人税法違反などの疑いで刑事告発された事案となります。
本件事案は、絵画などの美術品販売で利用されることの多いオークションの特性を悪用し、計画的に行われた脱税事案で、架空売上や架空仕入の計上により、3年間で約5億7,000万円の所得隠しを行ったとされていますので、1年あたりに換算すると約2億円と比較的規模の大きい事案と言えます。報道によると、2社の売上高はそれぞれ約20億円で、合計すると40億円にもなり、仮に、美術品1点の平均販売価格が1,000万円だったとすると、年間販売数は400点にも及ぶことになります。脱税事案は、売上除外か架空仕入により所得の仮装隠蔽が行われますが、いずれも取引の相手方が存在しますので、反面調査を行えば、仮装隠蔽行為はバレることになります。しかし、不特定多数の個人への販売や匿名性の高い販売の場合などでは、仮装隠蔽事実の糸口や全貌を解明するには困難を極めます。また、通常の販売価格よりも低い価格で販売したかの様に見せかけて脱税する事案は少なくありませんので、国税局は廉価販売にも目を光らせていますが、美術品の場合には、値段があってない様なものも多く、一見して販売価格が高いのか低いのかさえ判別できないのが特徴で、全貌解明をより困難なものとします。こうした背景があったのか、本件事案では、2018年4月に強制調査に着手していましたが、刑事告発まで1年もの期間を要しています。
本件事案からの教訓としましては、脱税は、遅かれ早かれバレてしまうということに尽きます。最初は少額ですが、徐々にエスカレートして行き、摘発されるケースがほとんどです。査察調査を含め国税局の調査を経験したことがない税理士もいる様ですので、顧問税理士の対応に限界を感じたら、早めに専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。