報道によると、2023年12月、とびや土木工事などを行っている建設業者と前社長が架空外注費の計上などにより約1億4,000万円の所得を隠し法人税など約2,600万円を脱税した疑いで、国税局が地方検察庁に刑事告発し、現在、検察官による捜査が行われているとのことです。
分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案も、建設業界における典型的な所得隠しの事案であり、建設業者による脱税事件は後を絶ちません。
建設業は、国税庁が毎年6月に公表する「脱税白書」の業種別告発件数のランキングで常にトップか上位にランクインされており国税局も目を光らせて監視しています。本件事案では、過去何年分の期間が刑事告発の対象となっているのかは明らかにされていませんが、刑事告発後に数か月にも及ぶ検察官の捜査が続き難航している状況を鑑みますと、恐らく、最低限の年分である過去3年ではないかと推測されます。そうしますと1年間あたり5,000万円ほどの架空外注費の計上となりますが、一方、追徴税額は1年間あたり900万円ほどにしかならず数字が合いません。法人税等の実効税率が約35%ですので、本税だけでも約1,800万円の計算となりますが、実際にはその半分の税額にしかなっていないためです。通常、法人税のほか消費税もかかってきますので、それらを踏まえると追徴税額が極端に少ないことが分かります。この要因として考えられるは、架空外注費を計上する一方で、計上されていない多額の経費が認容された可能性があるのではないかと思われます。こうした状況から推察しますと、会社の経理は「どんぶり勘定」で、まともに決算もせず適当な数字で決算書を作成し申告していたのではないかと言うことが想像できます。本件事案では査察調査になる前に所轄税務署による任意調査が行われていたはずであり、任意調査の段階で架空外注費の計上事実を掴んだものの、金額の根拠がない数字合わせの決算で、前社長がまともに調査に応じないなど対応があまりにもひどかった為、任意調査での実態解明は難しいと判断され、査察調査に切り替わったのではないかと推察されます。また、こうした状況では手持ち資金も多くないはずですので、追徴税額の支払いもできていないものと推察され、査察事案のなかでも小規模な事案であるにもかかわらず、刑事告発されたものと推察致します。
本件事案からの教訓としましては、査察調査の対象となる脱税事案であっても、所轄税務署の任意調査の段階で適切に対応できていれば、査察調査への切り替わりを阻止できる可能性があると言うことです。事案によっては顧問税理士の支援を受けられず、社長自らが直接税務調査の対応をしてしまい、査察調査へ切り替わってしまう事案も少なくありません。現在、所轄税務署や国税局の調査を受けられ、査察調査に切り替わるのではないかとのご不安を抱えられている方は、早めに専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。