報道によると、大阪国税局は、2021年7月9日、不動産購入に係る消費税の仕入税額控除の対象となる建物価額を水増しし、非課税とされている土地価額を減額するなど、仕入税額控除額が多くなる様に装い、消費税など約1億円を脱税、不正還付を受けたとして、不動産売買業者などグループ企業7社と実質的な経営者を消費税法違反などの疑いで刑事告発しました。
分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、消費税の仕入税額控除制度の仕組みを悪用して行われた脱税事案で、グループの実質的な経営者がグループ企業を利用して、販売用不動産を購入する際、故意に建物価額を水増しすることで、仕入税額控除の対象となる消費税を多く支払ったかのように装う一方、仕入税額控除の対象とならない土地の価額を減額することで消費税の還付を受け、2015~2019年の約4年間で消費税など約1億円の不正還付を受けたとして、消費税法違反などの疑いで刑事告発された事案となります。なお、報道によると、消費税不正受還付のほか、グループ企業間での架空修繕費の計上などで約4億3,000万円の所得を圧縮し、法人税など約1億円を脱税した疑いもあるとのことです。
本件事案は、典型的な消費税不正受還付事案で、不動産購入時の建物価額に係る仕入税額控除の水増しによる脱税事案となります。一般の事業会社においても、不動産を購入する際、契約書の売買金額が土地建物の総額表示となっていることもあり、その場合は、土地と建物を区分して計上する必要がある為、固定資産税評価額や路線価評価額など合理的な基準を用いて、適正に按分することとされています。また、業態によっては、土地建物を一括して取得するのではなく、土地を先行取得し、その後、建物を建設、販売するなど様々な取引形態があり、こうした不動産業特有の仕入販売方法に着目して、建物価額を故意に水増しすることは、グループ企業間であれば容易に調整できることから、実務上、この様な価額調整は少なくないのではないかと思料します。本件事案は査察事案であることから、かなり悪質な手口で、多数かつ多額の価額調整を行っていたものと推察されますが、本件事案に留まらず、特に不動産売買業者の方は、こうした建物価額の水増しにより消費税の不正還付を受けると、査察事案になり得ることを肝に銘じて頂ければと思います。
本件事案からの教訓としましては、再三申し上げている通り、脱税の発端は、最初は少額で、徐々にエスカレートして行き、最終的に摘発されるケースがほとんどで、本件事案も例外ではないと思います。既に、本件事案と同じような手口で消費税の不正還付を受けられている方は、早めに専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。