脱税ニュース分析

No.037 農作業請負会社が売上除外による消費税の脱税(約3,400万円)で在宅起訴

報道によると、農作業などを請け負う法人が、売上を事業実態のない関係会社名義の口座に振り込ませるなど、過去3年間で約3,400万円の消費税などを申告せず脱税した疑いで、消費税法違反などにより在宅起訴されました。

分析

報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、売上を事業実態のない法人(いわゆるペーパーカンパニー)の口座に振り込ませ脱税を行う典型的な事案となります。本件事案では、ペーパーカンパニーの口座に入金された売上に係る消費税の申告除外のみ認定されたようで、法人税は刑事告発の対象とはなっていません。通常、ペーパーカンパニーに入金された売上金は、事業法人の売上として認定されることになりますので、かかる売上除外に対する法人税の追徴課税がなされますが、本件事案では消費税のみということの様ですので、恐らく、事業法人に多額の欠損金があったか、簿外経費を認定されるなどして、刑事告発の対象となるほどの法人課税所得が出なかったのではないかと考えられます。なお、現行の消費税率は10%ですので、逆算しますと、3年間で少なくとも3億4,000万円以上の売上金がペーパーカンパニーの口座へ入金されていたものと推察されます。また、報道によると、ペーパーカンパニーに入金された売上金は、主に法人の事業経費に充てられていたとのことですので、計画的な脱税というよりは、資金繰りに窮し止むに止まれず軽率に行ってしまった脱税ではないかと思われます。本件事案に限りませんが、現在、マネーロンダリング規制の厳格化により、銀行口座から多額の現金を引き出す際、金融機関窓口で現金使途の説明や裏付け資料などの提出を求められることになっており、またATMでの現金引き出しは1日あたり最高200万円に設定されていますので、仮に1億円の現金を引き出す場合でも50日はかかる計算となり現実的ではありません。本件事案でも、当初は、ATMでの現金引き出しを行いながらも途中で断念し、事業会社への貸付けなど尤もらしい理由を付け口座振込に切り替えたのではないかと思われます。しかし、この判断が、最悪の結果を生むことになろうとは思いもしなかったことでしょう。ペーパーカンパニーからの資金の貸付けにより事業会社では多額の借入金が計上されることとなります。これを不審に思った調査官が資金源の反面調査を行い脱税の端緒を掴んだものの、代表者は反省もせず否認し続けた為、査察調査に切り替わったのではないかと推察されます。

本件事案からの教訓としまして、脱税者本人はバレないだろうと思っていても、脱税の手口も言い訳も似たり寄ったりで、最終的にはバレてしまうことに尽きるということです。なお、本件事案に類似したペーパーカンパニー絡みの査察調査事例(「当事務所における最近の査察調査対応事例」)において、国税局の誤った見立て(脱税ストーリー)では、査察調査に切り替わったものの刑事告発が見送られた事案もありますので、是非ご参照頂ければと思います。