報道によると、漫画家が出版社からの原稿料や印税など約2億6,000万円の収入がありながら、申告期限までに確定申告をせず、所得税など約4,700万円を脱税した疑いで刑事告発されていた脱税事件の地裁判決で、懲役10月・執行猶予3年、罰金1,100万円が言い渡されました。
分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、個人事業主による無申告事案で、国税庁が平成29年度(2017年)頃から重点事案として積極的に取り組んでいる無申告事案の一つである(背景として平成23年度税制改正による単純無申告逋脱罪の創設がある)。国税庁が毎年6月に公表している「査察の概要」(いわゆる「脱税白書」)によると、無申告逋脱事案の告発件数は次の通りに推移しており、増加傾向にあることが伺える。
本件事案は、収入を隠蔽仮装するなど積極的な脱税工作は行われていなかった様ですが、判決では、「数年にわたる多額の脱税で悪質」であるとされ有罪判決となりましたが、その後の確定申告については適正に行っていることなどから執行猶予付きの判決となっています。漫画家に限らず、作家やミュージシャンなど印税収入を得る個人事業主の多くは、メジャーデビューするまでは安定的な収入がない状態が続くものの、突如、大ヒットすると桁違いな収入を得て、多額の納税を前に確定申告を躊躇してしまうケースも少なくないのではないかと思います。しかし、無申告による脱税事案と言うのは(悪質でない事案までも一律に刑事罰に処すると言う法律の解釈適用については如何なものかと思うところはあるものの)、実務上は、積極的な脱税工作をしていない事案であっても、脱税額が大きければ、査察調査の対象となる可能性が高くなっているという現実があります。国税庁は、社会的波及効果の高い事案を告発する傾向にありますので、著名人や成長が著しい業種・職種などに従事している個人事業主はターゲットにされやすい状況にあると言えるでしょう。
本件事案からの教訓としましては、「出る杭は打たれる」と言いますが、人は他人が儲かっている姿を見ると嫉妬するのでしょう。国税庁には、数多くの脱税情報が寄せられており、ネット情報を含め、専門部署で日々情報分析をしています。たとえ有名ではなくとも、多額の収入を得ている場合には、常に誰かに監視されているという意識をもって行動することが必要なではないかと思います。突如として多額の収入を得た場合など、身に覚えのある方は後悔しないよう、今すぐ専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。