脱税ニュース分析

No.033 住職がお布施を私的流用、給与と認定され追徴課税

報道によると、お寺を運営する二つの宗教法人の住職二人が、檀家からのお布施など合計で約1億5,000万円を私的流用していたとして、国税局は、住職に対する給与と認定、宗教法人に対して所得税の源泉徴収漏れを指摘、重加算税を含む約7,000万円の追徴課税を行いました。

分析

報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、宗教法人による典型的な申告漏れの事案となります。宗教法人は税金がかからないと思っている方もいらっしゃるかと思いますが、宗教法人であっても収益事業を行った場合には、法人税が課されることになっています。課税対象となる収益事業は、物品販売業や駐車場業など34種類の事業が定められており、宗教法人がこうした収益事業を行っている場合には法人税の課税対象となる一方、お布施やお賽銭など宗教活動による収入については収益事業には該当せず課税対象とはなっておりません。本件事案のように、お布施など宗教法人の課税対象となっていない場合であっても、住職がお布施などの金員を個人的に費消した場合には、住職に対する給与の支払いがあったものみなされ、法人に対しては給与に係る源泉徴収漏れの課税が、住職個人に対しては給与所得としての課税が行われることになります。
本件事案では、住職がお布施などを自己名義の銀行口座に入金したり、個人的に費消したりするなど私的流用が行われていたものと認定され、過去7年間で約7,000万円の源泉徴収漏れによる追徴課税が行われました。しかも本税だけではなく、重加算税も課されていることから、私的流用が計画的で悪質であったと判断されたものと推察します。最近では、お賽銭を電子マネーで受け付けるところもあるようですが、現状では、お賽銭に限らず現金で受領するのが一般的です。現金受領の場合には、そもそも収入自体の把握が難しいことから、ある意味、黙認せざるを得ない状況にあったのではないかと思いますが、さすがに目に余る状況になったのでしょう。国税局の主導で、宗教法人に対し一斉に税務調査に踏み切りました。本件事案の公表を受け、多くの宗教法人は、収入をきちんと分別管理するようになったのではないかと思われますが、中には、住職の個人口座に入金するとバレてしまうので、現金を手元に保管し私的流用を続けるケースもあるのではないかと推察できますので、今後、お布施を含め全てキャッシュレス化しない限り、この問題を根絶するのは難しいのではないかと思われます。 本件事案からの教訓としましては、電子決済が主流となりつつある中で、現金取引を行っている事業者は、逆に当局から目を付けられやすい状況になってきていることから、ある日突然、資料調査課の調査や査察調査とならないよう、常日頃からの現金収支管理が重要となってきています。現金取引が多いなど、税務調査や査察調査などのご不安を抱えられている方は、早めに専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。