報道によると、2023年12月、ビルやマンションの管工事を行う給排水設備会社が、架空外注費の計上や費用の水増しなどにより、約1億3,000万円の所得を隠し、法人税など約3,000万円を脱税した疑いで、国税局が地方検察庁に刑事告発したことが分かりました。
分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案も、建設業における典型的な所得隠しの事案であり、建設業者による脱税事件は後を絶ちません。国税庁が毎年6月に公表する「脱税白書」の業種別告発件数のランキングで、建設業は常にトップか上位にランクインされていることから、国税局も常に目を光らせ継続的に監視しています。
本件事案では、過去3年間で約1億3,000万円の所得隠しの疑いがもたれており、1年あたり約4,000万円の架空外注費などの計上となります。一方、脱税額は約3,000万円ですので1年あたり約1,000万円となりますが、査察事案で刑事告発の対象となる規模としては、かなり小ぶりな事案と言えるかと思います。コロナ禍で査察調査の着手件数が大幅に減少し、その分を取り戻そうと少額な脱税事案についても積極的に着手し告発件数の増加に取り組んでいる姿勢が読み取れるかと思います。ただ新規での査察事案の選定や開発などには相応の時間と労力を要しますので、最近の傾向から、任意調査において一定額以上の脱税の端緒を掴んだ事案については、たとえ告発見送りとなる可能性があっても、積極的に査察調査に切り替える事案が増えてきているという印象があります。
建設業など現場工事を伴う場合、下請などへの支払いを現金で行うケースも少なくありません。領収書などをきちんと管理していないケースでは、出金事実は確認できるものの支払先が特定できないなど経費の認定をめぐり難航することが少なくありません。特に、査察調査の場合、P/L(損益)面だけなく、B/S(財産)面からのアプローチも必要であるため、財産面でのバランスが合わず、担当査察官から使途の確認を求められる場面が出てきます。調査の現場では、反面調査による裏取りや、領収書を一枚一枚確認していき預金口座からの出金などと照合しながら、気が遠くなる様な地道な作業が行われています。なお、本件事案では、修正申告と本税の納付は済ませているとのことですが、状況からしますと、手持ち資金はほとんど無い状態ではなかったかと思われますので、脱税資金で購入した高級外車などを売却し何とか納税資金を工面したのではないかと推察されます。
本件事案からの教訓としましては、査察調査の対象となる脱税事案であっても、任意調査の段階で適切に対応できていれば、査察調査への切り替わりを阻止できる可能性があると言うことです。現在、所轄税務署や国税局の調査を受けられ、査察調査に切り替わるのではないかとのご不安を抱えられている方は、早めに専門の税理士に相談することを強くお勧め致します。