脱税ニュース分析

No.006 不妊治療クリニックの院長らが、脱税容疑で刑事告発

報道によると、東京国税局査察部は、2020年12月7日、治療費の一部を売上除外したり、架空の広告宣伝費を計上するなどして、約2億6,000万円の所得を隠し、所得税約1億2,000万円を脱税したとして、東京都台東区の不妊治療専門医院の院長と夫が、東京地検特捜部に刑事告発された。2人とも容疑を認めている。

報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、所得税法違反の罪で、夫婦共に刑事告発された事件で、クリニック院長で妻の確定申告につき、会計を担当していた夫が主導し、売上の一部を除外したり、架空の広告宣伝費を計上するなど、2017~2018年までの2年分で、約2億6,000万円の所得を隠し、所得税約1億2,000万円を脱税したとして、東京地検特捜部に刑事告発されました。脱税事件で「脱税幇助」の共同正犯として、共犯者が刑事告発されるケースも少なくありませんが、本件は、所得税法違反事件で、夫婦共に刑事告発されている点が注目されます。領収書や請求書等を偽造するなど脱税に協力した場合に、共犯者は幇助犯として刑事告発の対象となりますが、刑事告発されるかは、脱税への関与度合いなどによります。本件で、夫が妻の確定申告書を作成し、妻が黙認して提出していたということであれば、夫が脱税を主導していた事実は明らかで、「脱税幇助」として刑事告発されるのは当然と言えるでしょう。逆に、妻の指示で、夫が領収書等を偽造した場合でも、共同正犯としての犯罪構成要件は満たしますので、刑事告発の可能性は残り、脱税正犯の刑(10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金)より軽減した刑となりますが、実刑となる可能性もあります。

本件からの教訓としましては、個人事業を含め、小規模事業者の方で、顧問税理士を付けて、定期的にアドバイスを受けている方は、少ないのが現状ですが、本件のように、億単位の所得規模となった場合には、顧問税理士を付け、定期的に節税等のアドバイスを受けるべきでしょう。なお、本件のクリニックは、2017年4月に開業したばかりで、翌年には約6億円もの収入があったとの報道もあり、急激に売上が増加した事業者に対する査察事案は後を絶ちません。このように、専門家のアドバイスを受けず、夫婦や身内だけでやっている状況が、いかにリスクが高いか、脱税で支払う高額な追徴税額や社会的信用の失墜に比べれば、月10万円程度の顧問料で、自分や家族、従業員の身を守ることができるとしたら、安いと言えるかもしれません。身に覚えがある方は、最悪の結末を迎える前に、早めに、顧問税理士を探し、相談することをお勧め致します。