報道によると、会社員5人と共謀して事業所得の損失を仮装し所得を隠蔽する手口により、過去3年間で合計1億3,000万円ほどの所得を隠し合計2,000万円ほどの脱税を指南した所得税法違反の疑いで、コンサルティング会社の役員が国税局に刑事告発されました。

分析
報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、本件事案は、「脱税コンサル」による典型的な脱税指南(脱税幇助)事件となります。近年、無資格者が節税と称して脱税を指南し摘発される事件が後を絶ちません。脱税指南事案は、脱税を指南する者と脱税指南を受け脱税を行った本人と共に査察調査の対象となり刑事告発される事案がほとんどですが、本件事案では、脱税者本人による脱税額が刑事告発の対象となる金額に満たなかったため、脱税指南者のみが刑事告発されたのではないかと推察されます。また本件事案では、会社員5人が過去3年間において合計1億3,000万円ほどの所得を隠し合計2,000万円ほどの還付を受け脱税したものと報じられていますので、単純計算すると1人あたり3年間で所得隠蔽額2,500万円、脱税額400万円ほどで、1年あたりに換算すると所得隠蔽額800万円、脱税額130万円ほどとなり極めて少額となります。脱税指南者は、サラリーマンで少額の還付であれば税務調査の対象になり難くく、バレないだろうと考えたのでしょう。脱税の手口は至ってシンプルであり、給与所得者である会社員が副業としてコンサルティング事業を行っている様に装い、マイナスの事業所得と給与所得を損益通算して給与に係る源泉税の還付を受けるといったものとなりますが、背景には、コロナ禍における副業ニーズの高まりもあったのではないかと推察されます。一般的に、サラリーマンが副業として行う事業は、収入規模から見ても事業所得ではなく雑所得に区分されるケースが圧倒的に多く、事業所得として申告するケースは例外であり、しかも事業所得の赤字で還付を受けるとなると、たとえ少額であっても、高い確率で税務調査に発展するであろうことは、資格者である税理士であれば当然のことと思う訳です。この点が、有資格者である税理士と無資格者である節税・脱税コンサルタントとの大きな違いであると言えます。不正還付は国庫金の詐取として、より重い刑罰の対象となります。みんながやっているから大丈夫、少額だからバレないだろうと言った根拠のない憶測に惑わされず、必ず税理士に相談することが肝要です。
本件事案からの教訓としまして、コンサルタントと称する無資格者から節税アドバイスを受け、節税商品や節税スキームを勧められた際には、たとえ知人からの紹介であっても、まずは疑ってかかり、提案された節税商品やスキームの是非につき、有資格者である税理士に相談することをお勧めします。税理士の中にも税務調査や査察調査の経験にバラつきがありますので、調査経験の多い税理士に相談すると良いでしょう。