脱税ニュース分析

No.011 これだけは知っておきたい!「査察調査の法律知識」

今回は、脱税ニュースの番外編として、「査察調査の法律知識」をまとめてみました。査察調査の心構えとして、また、査察調査中の方にも役立つような項目をピックアップ致しましたので、参考にして頂ければと思います。なお、当サイトの「国税査察の五箇条」でも査察調査のイロハについて掲載していますので、合わせてご活用頂ければ幸いです。

今回の記事は、私の恩師であり、わが国の「租税法」研究の第一人者でおられる、金子宏先生(東京大学名誉教授)の著書、「租税法(第24版)」(弘文堂、2021年11月24日発行)から、重要項目を抜粋、査察調査を法律的な側面からアプローチし、査察調査の法律知識や経験がない方にも分かり易いように、Q&A形式でまとめてみました。査察調査の現場では、法令に照らし、疑問を抱かざるを得ない調査が行われることも少なくなく、ご自身やご家族を守る為にも、正しい法律知識を持つことはとても重要となります。

Ⅰ総論

1.脱税とは?
偽りその他不正の行為により、租税を免れ、またはその還付を受けたことを構成要件とする犯罪であり、「詐欺利得罪」と罪質を同じくする。
2.「偽りその他不正の行為」とは?
逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことを言い、例えば、帳簿書類への虚偽記入、二重帳簿の作成その他社会通念上不正と認められる行為などがあげられる。
3.「逋脱の意図」とは?
刑法38条1項は、原則として故意犯のみを罰することとされ、脱税犯についても、構成要件の規定の仕方から見て故意犯であると解すべきであり、その成立のためには、構成要件に該当する事実の認識が必要である。所得税や法人税の逋脱犯についていえば、所得の存在についての認識が必要であり、所得の存在について全然認識がない場合には逋脱犯は成立しない。
4.共犯となる脱税とは?
脱税については、共犯(「共同正犯」)が成立すると解すべきとされており、例えば、次の様な場合に成立するとされている。

  • ・証券会社の外務員が顧客の仮名取引について主導的役割を演じていた場合
  • ・金融機関の不動産営業部門の職員が不動産仲介業者の虚偽不申告につき事前の所得秘匿工作に加功していた場合
  • ・法人の役職についておらず、報酬も受けていないが、代表取締役から社長付として経理担当の取締役に相当する権限を与えられていた者が、代表取締役等と共謀して虚偽の確定申告書を提出した場合
5.無申告の場合は?
故意に、確定申告書・修正申告書等を法定期限までに提出しないことにより租税を免れることを構成要件とする犯罪(申告書不提出逋脱罪。平成23年度6月改正により設けられた新しい類型の逋脱犯)であり、例えば、次の様な場合に成立するとされている。

  • ・FX取引を行っていた者が多額の運用益を全く申告しない場合
6.推計課税は認められるのか?
脱税金額の認定にあたって、直接資料が十分に存在しない場合には、その限りで、推計の方法、すなわち間接資料を用いてそれを推認する方法も、それが経験則に照らして合理的であり、かつ、それによって合理的な疑いをさしはさむ余地のない程度の証明が可能である限り、許されると解されるべきであり、その方法の1つとして財産増減法の利用も許されると解すべきである。
7.海外の財産は徴収を免れることができるのか?
経済のグローバル化に伴い、滞納者が国外に財産を有する事例が増えてきており、これに対しては、徴収共助条約を締結して対応しているが、近年、この条約による徴収を免れるため、わが国と徴収共助条約を締結した国から締結していない国へと財産を移転させる事例が問題となったため、令和3年度改正により、滞納処分免脱罪の対象に、徴収共助による徴収を免れる目的で財産の隠ぺい等をした場合が加えられた。
8.脱税の処罰は?
平成22年度改正で、10年以下の懲役(改正前は5年以下)もしくは1,000万円以下の罰金(改正前は500万円以下)またはその併科に引き上げられた。脱税額が罰金刑の上限をこえる場合には、情状により、罰金額を脱税額にスライドさせて、罰金を脱税額以下とすることが認められている。

Ⅱ各論

1.査察調査の目的とは?
査察調査(租税犯則調査)は、犯則事実の存否とその内容を解明することを目的とする手続で、犯則事実が確認された場合には、告発が行われることになっているから、実質的には刑事手続きに準ずる手続であると考えてよい。
2.査察調査は任意調査なのか?

※予備知識
査察調査のうち、ガサ入れ(臨検・捜索・差押)は、裁判官が発行する許可状が必要となり強制調査となるが、ガサ入れ後の取調べなどは任意調査となります。

査察官は、国税に関する犯則事件を調査するため必要があるときは、犯則嫌疑者もしくは参考人に対して出頭を求め、それらの者に対して質問し、それらの者等が所持し、もしくは置き去った物件を検査し、またはこれらの者が任意に提出し、もしくは置き去った物件を領置することができ、また、官公署または公私の団体に照会し必要な事項の報告を求めることができるとされている。

3.取調べ(聴取)に応じる義務はあるのか?
査察官による、質問・検査および領置は、いわゆる強制調査ではなくて任意調査であり、質問に答えるかどうか、検査に応ずるかどうかは、調査を受ける者の自由である(検査の拒否等に対する罰金の規定は平成29年度改正で廃止された)。
4.黙秘権はあるのか?
この手続きは、犯則調査を目的としているという意味で、実質的には刑事手続に準ずる手続であるから、査察官の質問に対しては、当然に憲法38条1項の黙秘権の保障が及ぶと解すべきである。ただし、身体の拘束を伴わない状態において行われる質問であるから、あらかじめ黙秘権の保障について告知することは、憲法の解釈上、必要でないと解すべきであろう。
5.強制調査の範囲は?
査察官は、犯則事件を調査するため必要があるときは、その所属官署の所在地等を管轄する地方裁判所または簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検・捜索および証拠物もしくは没収すべき物件と思料するものの差押、または記録命令付差押(電磁気的記録を保管する者その他電磁気的記録を利用する権限を有する者に命じて必要な電磁気的記録を記録媒体に記録させ、または印刷させたうえ、当該記録媒体を差し押さえること)をすることができる。ただし、参考人の身体、物件または住居その他の場所については、差し押さえるべき物件の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索することができる。
6.ガサ入れ時の許可状の提示は?
査察官は、臨検・捜索・差押または記録命令付差押の許可状を、これらの処分を受ける者に提示しなければならない。
7.査察官の身分証の提示は?
査察官は、質問・検査・領置・臨検・差押または記録命令付差押をするときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときには、これを提示しなければならない。
8.勝手に錠を外し、封を切ることはできるのか?
査察官は、臨検・捜索・差押または記録命令付差押をするため必要があるときは、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。
9.パソコンの中身を見せる必要があるのか?
査察官は、臨検すべき物件または差し押さえるべき物件が電磁気的記録にかかる記録媒体であるときは、臨検または捜索もしくは差押を受ける者に対し、電子計算機の操作その他必要な協力を求めることができる。
10.現場の出入りを禁止できるのか?
査察官は、質問・検査・領置・臨検・差押または記録命令付差押をする間は、何人に対しても、許可を受けないでその場所に出入りすることを禁止することができる。
11.ガサ入れで何も出てこなかった場合は?
査察官は、捜索をした場合において、証拠物または没収すべき物件がないときは、捜索を受けた者の請求により、その旨の証明書を交付しなければならない。
12.ガサ入れ時の差押目録謄本の交付は?
査察官は、領置・差押または記録命令付差押をしたときは、その目録を作成し、領置物件・差押物件もしくは記録命令付差押物件の所有者、所持者もしくは保管者またはこれらの者に代わるべき者にその謄本を交付しなければならない。
13.調書に署名押印は必要なのか?
査察官は、犯則事件の調査のため質問をしたときは、その調書を作成し、質問を受けた者に閲覧させ、または読み聞かせて、誤りがないかどうか問い、質問を受けた者が増減変更の申立てをしたときは、その陳述を調書に記載し、質問を受けた者とともにこれに署名押印しなければならない。ただし、質問を受けた者が署名押印をせず、または署名押印することができないときは、その旨を付記すれば足りる。
14.差押物件の返還は?
査察官は、領置物件・差押物件または記録命令付差押物件について領置の必要がなくなったときは、その返還を受けるべき者にこれを還付しなければならない。
15.査察調査の終了は?
査察官は、犯則事件の調査により犯則があると思料するときは、検察官に告発しなければならない。告発がされると、事件は査察官の手を離れて、検察官の手に移り、刑事訴訟法の定める手続によって処理されることになる。