脱税ニュース分析

No.002 元宝塚トップスターの母、脱税で有罪判決

報道によると、千葉地裁は、2019年9月5日、所得税約4,900万円を脱税したとして、元宝塚トップスターの私設ファンクラブを運営していた母親(千葉県松戸市)に対し、懲役10ヶ月、執行猶予3年、罰金1,000万円の有罪判決を言い渡した。判決理由で裁判官は、ファンクラブ運営を一手に管理し、利益が生じていたことを認識しており、厳しい非難は免れないと指摘する一方、既に税の納付を済ませ、反省していることを理由に、執行猶予付判決とした。

強制調査(ガサ入れ)から有罪判決までの経緯

  • 2017年11月東京国税局が「強制調査に着手」(2016年分の所得のみが対象)
  • 2019年1月30日東京国税局が千葉地検に「告発」
  • 2019年4月19日千葉地検が「在宅起訴」
  • 2019年7月30日千葉地検は論告求刑公判で、懲役10ヶ月、罰金1,500万円を「求刑」
  • 2019年9月5日千葉地裁は懲役10ヶ月、執行猶予3年、罰金1,000万円の「有罪判決」

芸能人や著名人の脱税は、社会的な関心が高いため、よくマスコミに報道されますが、特に、2月の確定申告時期に、脱税ニュースが報道されることが多く、本件も、(国税局が意図的にタイミングを合わせリークしたのか分かりませんが)、2月19日に報道されています(告発は1月30日付)。

本件は、元宝塚トップスターの私設ファンクラブの会費やグッズ販売など2016年分の収入、約1億2,000万円を申告せず、告発された、いわゆる「単純無申告」による査察事案となります。脱税の手口はシンプルですが、大口であることや、約1,700人と言われる個人会員の裏取りが困難であることなどを理由に、国税局の任意調査ではなく、当初から査察調査だったと推察され、しかも、強制調査の初動が早いことから、事前にタレコミがあったか、目を付けられていたのではないかと思われます。

また、詳細は明らかではありませんが、私設ファンクラブは、外見上、2016年6月1日に設立された法人が運営していた様にも見えますが、法人の代表である母親の個人所得税の脱税として摘発されていることから、節税目的で法人を設立したものの、売上はすべて個人口座に入金し、法人の売上として申告していなかったものと推察されます(おそらく5月決算の為、2017年7月の申告で当該売上を計上していなかったはずです)。法人登記簿謄本を見ると、ガサ入れが入った翌年2018年2月20日付、国税局から指摘があったのか、法人目的に「ファンクラブの運営及び経営」が追加されており、個人の売上ではなく、(税率の低い)法人の売上であると主張していた可能性もあります。しかし、実態から、個人の売上と認定された為、観念して、所得税の期限後申告と納税を行ったのでしょう。代理人弁護士によると、(母親は)「税法に対して理解不足で、プールしている資金を申告しなければならないという認識がなかった。」と取材に答えていますが、少なくとも、悪質な脱税ではなかった、ということを世間に伝えたかったのではないかと思われます。なお、本件、ガサ入れの着手から告発まで、約1年3ヶ月もの期間に及んでいますが、約1,700人と言われる個人会員の把握と売上除外額及び脱税額の認定、その他タマリの把握などにかなりの時間を要したのでしょう。

本件を振り返ると、なぜ、トップスターの母親が査察調査のターゲットとされてしまったのか、今となっては大変悔やまれますが、法人設立後、顧問税理士に税務申告を依頼した時点で、会費収入等をすべて法人の売上に計上していれば、こんなことにはならなかった。顧問税理士は、なぜ、多額のファンクラブ収入等があるにもかかわらず、見過ごしたのか、仮に知らされていなかったとしても、これだけ有名な方であれば、ネットで調べるなど、多額の会費収入等の存在を確認できたのではないか。

本件からの教訓は、自分だけはバレないだろうという甘い考えを捨てること、早い段階から信頼の置ける税理士に依頼すること、それが自分や家族を守る上で最低限必要なことである、との認識に考えを改めること、そして、それができなければ、二度と取り返しが付かない悲惨な結果を招くこと、を肝に銘じておくべきでしょう。また、最近は、インターネットで簡単に税理士を検索でき、格安で決算申告を依頼できるようになりましたが、決算申告は単なる事務作業ではないことをしっかりと認識しておくべきです。格安であればあるほど、会計事務所も、提供された資料だけで機械的に決算書や申告書を作成せざるを得ないため、計算ミスや勘違いが起きたり、売上計上漏れや架空経費を見過ごすことに繋がり兼ねません。安かろう、悪かろうになるのは当たり前です。できる経営者は、顧問料を払ってでも、専門的なことは専門家に任せ、計画的に節税を行っていますが、脱税に手を染める経営者は、日頃から、税理士とのコミュニケーションが希薄なため、急激に売上が増えてもどうしたら良いのかも分からず、決算直前になり、慌てて、知人の会社に架空請求書を依頼したりするなど、場当たり的な対応しかできず、本人は節税程度の認識か、バレないだろうと思ってやったことが、いざ蓋を開けてみると、実は悪質な脱税だったというケースは少なくありません。心当たりがある方は、「有罪判決」という高い授業料を払うことになる前に、本件の教訓を活かして、今すぐ、専門の税理士に相談することをお勧め致します。