報道によると、東京地検特捜部は、2020年2月20日、法人税など約5,900万円を脱税したとして、東京都渋谷区のインターネット広告会社の社長を法人税法違反などの容疑で、山口県周南市の外注先の役員を脱税幇助の疑いで逮捕した。認否はいずれも明らかにしていない。その後、20日間の拘留を経て、3月11日、起訴された。起訴状によると、2018年2月期までの2年間で、架空の外注費を計上するなどして、約2億数千万円の所得を隠し、法人税及び地方法人税合計約5,900万円免れたとされている。

報道では、事件の詳細は明らかにされていませんが、脱税事件で逮捕されるケースは、容疑者が脱税を否認しているか、共犯者がいる場合が多いと言えます。本件の強制調査(ガサ入れ)では、架空外注費を裏付ける証拠(業務実態や資金の流れなど)の押収、関係者への取調べ、脱税した資金(たまり)の捜索が中心に行われたと思いますが、共犯者がいる場合、契約書類などの偽装工作や、口裏合わせなど証拠隠滅が図られることがあり、架空経費を立証する為の証拠収集に時間がかかったものと思われます。
一部報道によりますと、強制捜査が入ったのは2019年5月頃のようですので、告発までに10ヶ月ほどかかったことになります。その間、東京国税局では、パソコンや携帯電話など押収品の調査や、週1回程度のペースで、被疑者らの取調べ(任意)が行われていたと思われますが、被疑者らが調査に非協力的で、脱税を否認し続けていたことから、東京地検に告発され、逮捕に至ったものとおもわれます。
脱税は、「偽りその他不正の行為」により法人税等を免れるもので、単純な経理ミスなど、脱税の意図がないものは、刑事罰の対象となりません。つまり、被疑者が業務実態のない架空経費であることを知りながら、税金を免れていたという認識(通常、ガサ入れ後の取調べにより証拠(自白)が取られます。)が必要となるのです。
本件の架空外注費が、業務実態などからみて、適正な支払いであることを立証できれば無罪となりますが、第一審での有罪率が100%(平成28~30事務年度)であることからすると、無罪を勝ち取るのは厳しいのではないかと思います。既に起訴されてしまっていますので、後戻りすることはできませんが、強制調査の前か、直後に、何らかの手を打っていれば、逮捕・告発されることはなかったかもしれません。本件の調査対象は、直近が2018年2月期であり、法人税の申告が2018年4月末までになされているはずですので、6月の年度末(税務署・国税局では6月末が年度末で、7月上旬に定期人事異動があります。)をまたいで、2018年秋頃に、まず、所轄である渋谷税務署による税務調査が行われていたのではないかと思われますが、社長らが本件外注費の正当性を主張するものの裏付けとなる十分な証拠の提示をせず、関係者の口裏合わせなどで調査が難航し、2019年春頃まで続いたのではないかと思われます。
税務署は、国税局査察部とは違い、強制調査権を持たないため、任意調査の範囲でしか調査を行うことができません。そこで、担当調査官は、脱税額や社長らの調査対応などから、悪質であると判断し、本件を国税局査察部に引き継いだのではないかと思われます。税務調査の段階で、何らかの手打ちができなかったのか、強制調査後の取調べの段階で、何らかの交渉ができなかったのか、悔やまれるところです。